マラソンランナーが知っておきたい心電図(P波異常)~右房負荷・左房負荷・心房細動など~
マラソンランナーが知っておくべき「心電図のP波異常」とは
市民ランナーやマラソン大会参加者の中には、健康診断や大会のメディカルチェックで「P波に異常あり」と指摘され、不安に感じた経験のある方が少なくありません。P波は心電図上で最初に現れる波形で、心臓の上半分(左右の心房)が一拍ごとに収縮する電気信号を表しています。つまり、P波は「心房の元気度」「心臓がリズムよく拍動しているか」を示す重要な指標です。
P波が示すもの・マラソンランナーに多い異常の特徴
【P波の正常値と測定ポイント】
P波の幅:0.11秒(2.75mm)未満が基準。幅が広がると左房に負担。
P波の高さ:0.25mV(2.5mm)未満が基準。高さが増すと右房への負担を示唆。
マラソンや陸上長距離を続けると、持久的トレーニングによって心臓が「強いポンプ」として生理的に変化(スポーツ心臓)し、P波にも影響を及ぼすことがあります。一般ランナーでも「健康スポーツ心臓」か「病的変化」かを意識し、両者を区別することが安全・安心のため重要です。
右房負荷(右房性P波)
右房への負担増大ではP波が「先鋭化」つまり細く高く尖った波形(特にⅡ・Ⅲ・aVF誘導で2.5mm以上)が現れます。これは肺高血圧症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、一部の先天性心疾患(心房中隔欠損など)で目立つ所見です。
健康なランナーでも右房への一時的な負荷は現れうるものですが、持続的・顕著な場合は病的変化も考慮し、循環器内科での精密な評価がおすすめです。特に「右房性P波」とコメントを受けた場合は躊躇せず専門医での相談をお勧めします。
左房負荷(二峰性P波)
左房への負担――高血圧、心不全、僧帽弁疾患(閉鎖不全・狭窄など)では、P波の幅が広くなったりⅡ誘導で「二峰性=ふたこぶP波(僧帽性P波)」となります。山の間隔が広くなる、波が2つに分かれる(幅2.75mm以上)と左房拡大の指標です。
マラソンやエンデュランススポーツ歴が長い方では、生理的な心房拡大を呈することもあり、症状(息切れ、疲れやすさなど)が出た場合は心エコーなど追加評価が推奨されます。自覚症状や病的な所見がなければ運動継続可ですが、症状出現には注意しましょう。
心房細動・P波消失(f波出現)
最も気を付けたいのが、P波が消失してしまう「心房細動」や「心房粗動」などの不整脈です。心房細動(Atrial Fibrillation, AF)は心房が不規則に微細振動することでP波が消え、基線が「ざわざわしたf波(細動波)」となり、脈も不整になります。マラソン選手やトライアスリートの中にも長年の持久トレーニングで発症するケースが報告されています。
「動悸」「息切れ」「脈がバラバラ」「めまい」などの自覚症状が出た場合は、すぐに運動を中止し、循環器専門医への受診が必須となります。心房細動は血栓症や突然失神などリスクがあり、放置は禁物です。
陰性P波・異所性P波
本来、Ⅱ誘導でP波は上向きですが、下向き(陰性P波)や形が明らかに違うP波(異所性P波)が現れることもあります。この場合は心房の別の場所(異所性ペースメーカー)や房室接合部から電気興奮が起きているサインです。
症状がなければ定期経過観察で済むことが多いですが、「動悸」「胸部不快感」が伴えば、ホルター心電図や運動負荷試験でランニングとの関連性や頻度をしっかり評価する必要があります。
ランナーがP波異常で注意すべきサイン
健診や人間ドックで「P波異常」「房負荷」「心房拡大」と指摘された場合
ランニング中・直後に動悸、息切れ、胸痛、めまいや意識消失様の症状
スマートウォッチ等で「不規則な心拍」「心房細動疑い」の警告
こういった場合は、12誘導心電図だけでなく、心エコー・ホルター心電図(24時間心電図)、運動負荷試験などを組み合わせることで病的所見の有無や運動リスクをきちんと評価します。
走ってもよいP波異常と運動制限を要するパターン
走ってもよいケース
- 軽度の右房・左房負荷、または異所性P波(他検査正常、無症状、医師の許可あり)
- スポーツ心臓とみなされる範囲の生理的変化
運動制限・中止が必要なケース
- 心房細動や粗動などの不整脈が見つかった場合
- 重度の房室ブロックや進行性心疾患の合併
- 明らかな僧帽弁疾患・心房拡大などの背景で著明なP波異常
これらは血栓リスクや突然失神の危険があるため、運動制限や一時中止、厳重な運動管理が必須です。