ランニングと手足のしびれ

しびれは、日常生活で多くの人が経験する症状ですが、その原因や種類は様々です。神経や血管、筋肉などの機能障害などによって引き起こされます。日常生活の中で、しびれは異常な感覚や鈍痛、ピリピリとした感覚、チクチクとした感覚、触っても感覚がにぶい、冷たさや熱さが感じにくいなどの感覚異常や、手足に力が入りにくい、動きが悪いなどの運動麻痺 (脱力) をしびれとして表現することもあります。

しびれの概要

しびれを大きく分けると、感覚異常によるしびれと運動麻痺によるしびれの2種類にわけられます。感覚異常によるしびれは、正座をした後のような「ジンジン」「ピリピリ」といった感覚です。これは、皮膚などからの感覚を脳に伝える「感覚神経」の経路に障害が生じることで起こります。
運動麻痺によるしびれは、手足に力が入りにくくなる症状です。これは、脳から手足を動かすための命令を伝える「運動神経」の経路に障害があったり、筋肉自体に問題がある場合に起こります。

主な感覚異常の症状

  • 触覚や温度感覚の鈍化
  • 痛みの感じ方の変化
  • 異常な感覚(錯感覚)
  • 感覚過敏

運動麻痺の症状

  • 手足に力が入らない
  • 思うように動かせない
  • 筋力の低下

しびれの原因について

しびれの原因は、脳の病気、神経の圧迫や損傷(頚椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニアなど)、手足の末梢神経の病気、糖尿病、多発性硬化症、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患などがあります。

その他に、血液の流れに関する問題も手足のしびれを引き起こす要因となります。動脈硬化や血栓、低血圧、中毒、貧血などが関連しています。また、ビタミンB12不足やシアノコバラミン欠乏症も神経組織に影響を与え、しびれを引き起こす場合があります。

ランニングなどの運動中に起こるしびれでは、上記の原因の場合に関連して、運動誘発性しびれやハンガーノック(hanger knock)による手足のしびれ、疲労による手足のしびれ、水分の不足による手足のしびれなどの原因となることが多いです。

手足のしびれは身体の異常なサインであることもありますので、医療機関への受診が必要となることがあります。

状況別のしびれの原因

運動誘発性しびれ(Exercise-Induced Numbness)

ランニングや他の運動中に、神経や血管に圧力がかかることが原因で、手足がしびれることがあります。これを運動誘発性のしびれといい、長時間のランニングや特定の姿勢で発生しやすいです。運動時におこる神経や血管の圧迫や締め付けは、ウェアやシューズによる圧迫や締め付けが多く、ちょっとした対策で手足のしびれは改善します。

その他の原因として、運動中の手足の血流低下の場合もあります。運動時の血液の供給が手足よりも他の部位が優先される場合では、手足の血流低下によりしびれが現れることがあります。この場合のしびれは、運動を続けているうちに改善されることが多いです。

ハンガーノック(hanger knock)による手足のしびれ

ハンガーノックは、長時間の運動により極度の低血糖状態に陥ることで、エネルギー不足によって身体が動かなくなってしまう状態です。
ハンガーノック=エネルギー不足=身体のガス欠です。
主な症状として、喉の渇き、突然の疲労感、動悸、息切れ、めまい、吐き気、頭痛、手足、指先のしびれ、顔面蒼白、意識が遠のくなどがあります。

ハンガーノックの症状

ハンガーノックは極度の低血糖状態をいい、エネルギー源である糖質を消費しきってしまった状態です。糖質は体内ではグリコーゲンとなり、肝臓や筋肉に蓄えられていますが、このグリコーゲンを使いきると、筋肉のたんぱく質を代用しエネルギーとします。この状態は、筋肉に負荷がかるため、エネルギー消費をしないように突如として筋肉が動かなくなります。


ハンガーノックの症状は、

  • 初期症状:軽い空腹感、疲労感、倦怠感
  • 中期症状:強い空腹感、喉が乾く、足に力が入らなくなる、ふらつきを感じる
  • 後期症状:強い喉の渇き、指先の痺れ、めまい、動悸、冷や汗、強い疲労感に襲われる
  • 重症症状:意識障害(死に至る場合もある)

です。

ハンガーノックを防ぐポイント

  • ランニング等の運動をする2~3時間前に炭水化物を食べる
  • ランニング等の運動中にこまめに糖質・水分補給を行う
  • 違和感が表れたらすぐに休憩する

フルマラソンでエネルギー補給をしなかった場合、約3時間程度でハンガーノックとなるといわれています。

疲労による手足のしびれ(オーバートレーニング症候群)

長期間の過度なトレーニングにより、運動能力の低下や、疲労の回復がしない状態(オーバートレーニング症候群とも言います)となってしまう場合もあります。主に、激しい過度な練習が続いた時や、大会に頻繁に出場して過剰な負荷がかった状態になる時、睡眠不足や減量による栄養不足の状態の時、かぜなどで体力が落ちている時にランニングを行うとパフォーマンスの低下が見られます。初期段階では日常生活では自覚症状がなくても、練習についていけなくなったり、記録が落ちたりすします。症状が重くなると、動悸、息切れ、食欲の低下、手足のしびれ、立ちくらみ、微熱などの症状が出てきます。さらに、慢性疲労、睡眠障害、集中力低下などの症状も報告されています。

回復には適切な休養と栄養摂取が不可欠です。定期的なストレッチや質の良い睡眠も効果的です。また、過度なトレーニングを避け体調管理に十分注意を払うことが重要です。

水分の不足による手足のしびれ

長時間のランニングや運動で、たくさん汗をかき水分の補給しだけを行った(塩分の補給はなし)場合では、脱水となり手足に熱けいれんが引き起こされることがあります。

汗は体温調節を行っていますが、大量に汗をかくと体内の水分だけではなく、カリウム、ナトリウムなどの電解質(塩分)も不足してしまいます。カリウム、ナトリウムなどの電解質が足りなくなると体温が下がりにくくなります。また、電解質は筋肉の動きに関係していて、不足すると、筋肉がスムーズに収縮できなくなり、脱力感・手足のしびれ・不整脈などを感じるようになります。

脱水状態で水分だけの補給では、血液中の電解質濃度(塩分濃度)が下がります。こまめに水分補給を行っていても塩分の補給を行わなければ塩分濃度が下がり、手足にしびれなどの症状を感じるようになります。

水分・塩分補給におすすめのもの

水分・塩分補給におすすめのものとして

  • スポーツドリンク
  • 塩分を含む飴・タブレット
  • ゼリー飲料
  • 塩こんぶ
  • 梅干し

などがあります。

気温が高い時のランニングによる手足のしびれ

気温が高い日にランニングを行ったときに手や足がしびれることがあります。
暑い日や高温多湿な環境でランニングでは、汗を多くかき体内の水分と電解質が失われ、血管が収縮して血液循環が妨げられます。その結果、手や足がしびれたり、冷たく感じることがあります。また、体温調整のために血液が皮膚表面に集中し、末梢血流が減少し、手や足がしびれたり、冷たく感じることがあります。

気温が高い日にランニングでは、十分な水分補給を行い、ランニング前後での水分管理をおこない、運動は定期的な休憩と体の冷却が大切です。特に高温時では、運動前に体を十分に暖め、急激な運動を避けることも大切です。

気温が低い時のランニングによる手足のしびれ

気温が低い時にランニングしたときに手足の指先にしびれや痛みを感じたり、皮膚の色が白、青紫に変わったりすることがあり、多くのランナーが経験したことのある現象です。

この症状には主に二つの要因があります。

寒冷による筋肉の影響

寒さにより筋肉が固くなると、以下の問題が生じます。

  • 神経の圧迫:寒さで筋肉が固くなり神経を圧迫してしまい、手足のしびれが起こったり、固くなった筋肉の影響で血流が悪くなり手足のしびれが起こります。
  • 血流の悪化:筋肉の緊張により血管が圧迫され、血液循環が妨げられ、手足のしびれが起こります。

レイノー症候群(レイノー病やレイノー現象)

寒さの刺激により血管が縮こまり、一時的に指先など抹消に血が流れなくなり指先の色が悪くなる、指先がしびれる、冷え、痛み、感覚が無くなる、締め付けられるような感じがするなどの症状が起こります。

症状の特徴:指先などの末梢部位の血流が一時的に阻害され、皮膚の色が白→紫→赤と変化します。また、しびれ、冷感、痛み、感覚の喪失などを伴います。


(※レイノー現象は、30歳以下の女性に多く見られますが、男性でも発症することがあります)

対策と予防法

  • 適切な防寒:薄手の手袋を着用やカイロなどを使用する。
  • ウォームアップ:走る前に十分な準備運動を行い、筋肉をほぐす。
  • 段階的な体温調整:急激な温度変化を避け、徐々に体を冷やす。
  • 栄養管理:根菜類や味噌汁など、体を温める食事を心がける。

※レイノー現象が頻繁に起こる場合は、膠原病などの初期症状である可能性があるため、医療機関での検査を検討することをおすすめします。

病気が原因となる手足のしびれ

病気を原因で手足のしびれを伴うことがあります。この場合には、脳、脊髄、脊髄から延びる手足の末梢神経のうちの、いずれかで障害が生じている可能性が高いです。また、力が入りにくいことをしびれとして感じることもありますので、手足のしびれ、力の入りにくさを感じたときには、できるだけ早く医療機関に相談することをお勧めします。

主に糖尿病があります、キアリ奇形、脊髄空洞症、多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多発単神経炎、ギランバレー症候群、中心性頸髄損傷などがあります。

しびれが起こる場所による原因

上肢(腕や手など)にしびれが起こっている場合は、頚椎症(頚椎の変形)、頸椎椎間板ヘルニア(椎間板の一部が頸椎から飛び出して神経を圧迫する)、頚椎後縦靭帯骨化症(靭帯に沈着した物質によって脊髄や神経を圧迫する)、脊髄腫瘍などを疑います。
下肢(脚や足など)にしびれが起こっている場合には、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などを疑います。
脊柱管狭窄症による下肢のしびれは、長時間歩いたときなどに出現し、しばらく休むことで治まるの特徴があります。
その他、脳梗塞や脳出血による手足のしびれ、糖尿病や膠原病によって末梢神経が傷つくことによるしびれや痛みが生じることがあります。

ランニングで手のしびれの主な原因

ランニングで足のしびれの主な原因

  • 足底筋膜炎
  • 外反母趾
  • 血流の問題
  • モートン病
  • 神経の問題
  • 糖尿病

その他の手のしびれの原因

  • 頸椎が原因のしびれ
  • 頸椎症性脊髄症
  • 頸部神経根症
  • 手根管症候群
  • 前骨間神経症候群(回内筋症候群)
  • 後骨間神経麻痺(回外筋症候群)
  • 肘部管症候群
  • ギオン管症候群
  • 橈骨神経麻痺
  • 胸郭出口症候群
  • 指神経麻痺
  • Bowlers thum
  • グロームス腫瘍
  • 上腕骨外側上顆炎
  • 肩甲背神経絞扼障害
  • 肩甲上神経麻痺
  • 四辺形間隙症候群(腋窩神経麻痺)
  • 長胸神経麻痺

頸椎が原因のしびれ

頚椎(首の骨)の変性に引き起こされる症状に頚椎症性神経根症があります。頚椎症性神経根症の症状は、主に肩から腕、手指にかけての痛みやしびれを特徴とします。この症状は、加齢や不良姿勢により椎間板が膨らんだり骨棘が形成されることで、神経根が圧迫されて発生することがおおいです。
特に、20〜40代の方によく見られ、スマートフォンやパソコンの長時間使用、運動不足などが原因となることがあります。症状の程度は個人差が大きく、軽度なものから日常生活に支障をきたすほど重度なものまでさまざまです。

主な治療法としては、安静や頚椎カラーの使用、薬物療法などの保存療法となります。症状が改善しない場合は、ブロック注射や手術療法を検討することもあります。

予防は、正しい姿勢の維持や定期的な休憩、適度な運動が重要です。早期発見・早期治療が症状の改善に繋がるため、気になる症状がある場合は専門医への相談をおすすめします。

手根管症候群

手根管症候群は、手・手関節にある手根管と呼ばれるトンネル内で、正中神経が圧迫された状態で、手関節の運動が加わって生じます。手・手関節にある手根管は、手根骨と横手根靱帯(屈筋支帯)で囲まれたトンネルで、このトンネルの中には正中神経と9本の腱が走行しています。この9本の腱は、滑膜性の腱鞘を伴っており、腱鞘炎やケガなどにより、腱鞘がむくむと手根管内で正中神経が圧迫されて手根管症候群を発症します。

主な症状として、初期症状は、示指、中指のしびれや痛み、重症化すると、正中神経の支配領域である母指から環指(母指側)の指のしびれです。特に、明け方に手がしびれや痛みが現れます。

手根管症候群の原因となるものは、手首の骨折や脱臼、腱鞘炎、関節リウマチ、痛風、神経鞘腫、線維腫、過誤腫、ガングリオン、血管腫、脂肪腫、アミロイドーシス、糖尿病、先端肥大症、虫様筋肥大、筋肉奇形、正中動脈遺残などです。

手根管症候群についてもう少し詳しく下記で説明しています。参照してください。

ギオン管症候群

ギオン管症候群は、手の小指側が痺れる疾患で、尺骨神経の絞扼障害です。尺骨神経が圧迫を受ける部位は大きく肘と掌の2箇所あります。肘での圧迫による障害は、肘部管症候群といい、掌での圧迫による障害はギオン管症候群といいます。尺骨神経の圧迫による障害は、小指の掌側で起こります。

ギオン菅は、手根骨の有鈎骨と豆状骨の間、横手根靭帯(屈筋支帯)と豆状有鉤靭帯の上にあります。

尺骨神経の感覚神経が障害されると、小指と薬指の小指側半分にシビレ、痛みが起こります。

肘部菅症候群

肘部管症候群は、肘の内側にある尺骨神経が圧迫されることで発生する神経障害です。この圧迫により、指や手のしびれ、痛み、筋力低下が生じます。特に小指や薬指に症状が現れやすく、重症化すると手全体の感覚が鈍くなったり、握力が低下することもあります。

肘部管症候群の原因には、繰り返しの動作や外傷、姿勢の悪さなどがあります。

  • 繰り返しの動作:肘を頻繁に曲げたり伸ばしたりすることで神経が圧迫されることがあります。
  • 外傷:肘を強く打ったり、骨折した後に神経が圧迫されることがあります。
  • 姿勢の悪さ長時間の悪い姿勢が原因で神経に負担がかかることがあります。

肘部管症候群の予防策

肘部管症候群を予防するためには、日常生活での注意が重要です:

  • 肘を過度に曲げない: 長時間肘を曲げる姿勢を避け、定期的に休憩を取りましょう。
  • 正しい姿勢を保つ: デスクワークやコンピューター作業を行う際は、正しい姿勢を心掛けることが大切です。
  • 適切なストレッチ: 肘や腕の筋肉を柔軟に保つために、適切なストレッチを行いましょう。

橈骨神経麻痺

橈骨神経麻痺は、腕から指先に通っている橈骨神経が何らかの原因で障害されて、手首や指を伸ばせなくなったり、感覚障害などが起きた状態をいいます。

橈骨神経は上腕から前腕、指先にまで伸びている神経で、この神経が圧迫など負荷がかかり障害されると神経が麻痺します。橈骨神経が障害された場所により症状は異なります。

上腕周辺で障害された場合

手首を下に曲げること出来るが、持ち上げて上に反らすことができなくなります。指の付け根(MP関節、中手指骨関節)部分の関節が伸ばせなくなります。また、親指、ひとさし指、中指、手の甲から前腕の親指側の感覚の障害が起き、手首と指が下がった状態(下垂手)になります。さらに、親指と人差し指の間のしびれを感じたりすることもあります。第1関節(DIPとIP)と第2関節(PIP)は伸展可能です。

肘部分で障害された場合

肘より末梢で神経が障害された場合は、手首を上にそらすことはできますが、指のみが下がった状態になり(下垂指)ます。感覚麻痺やしびれなどの症状は生じないことが一般的です。

前腕から手首で傷害された場合

前腕や手首で障害された場合は、手首や指の動きは異常はなく、親指・人差し指の手の甲側に感覚障害のみが生じます。

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群は、首から腕にかけての神経や血管が圧迫されることで起こる症状の総称です。この症状は、肩や腕の痛み、しびれ、冷感などを特徴とし、日常生活に支障をきたす可能性があります。

主な症状

胸郭出口症候群の主な症状には以下のようなものがあります。

  • 腕や手のしびれや痛み
  • 肩こりや首の痛み
  • 手の冷感や変色
  • 腕の疲労感や脱力感

これらの症状は、特に腕を上げたり、首を後ろに反らしたりする動作で悪化することがあります。

原因

胸郭出口症候群の主な原因には以下のようなものがあります。

  • 姿勢の悪さや長時間のデスクワーク
  • 首や肩の筋肉の緊張や硬直
  • 先天的な骨の異常
  • 外傷や事故による組織の損傷

診断と治療法

診断は、症状の詳細な聴取と身体診察が基本となります。必要に応じてX線検査やMRI、神経伝導検査などの画像診断も行われます。

胸郭出口症候群の治療には、保存的治療と外科的治療があります。

保存的治療

  • 理学療法:ストレッチングや筋力トレーニング
  • 薬物療法:消炎鎮痛剤の服用
  • 生活指導:姿勢の改善や休息の取り方

外科的治療

保存的治療で改善が見られない場合、手術による神経や血管の圧迫解除が検討されます。

予防と自己管理

胸郭出口症候群の予防と自己管理には、以下のような点に注意が必要です:

  • 正しい姿勢の維持
  • 定期的なストレッチング
  • 適度な運動と休息
  • 作業環境の改善(デスクの高さ調整など)

その他の足のしびれの原因

  • 大腿外側皮神経痛
  • 坐骨神経痛
  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 梨状筋症候群
  • 大腿神経絞扼障害
  • 閉鎖神経症候群
  • ハンター管症候群(伏在神経麻痺)
  • 腓骨神経麻痺
  • 腓腹神経麻痺
  • 浅腓骨神経麻痺
  • 足根洞症候群
  • 前足根管症候群
  • モートン病
  • 足根管症候群
  • むずむず足症候群
  • 多発神経炎
  • 糖尿病性神経障害
  • 脚気