マラソン・ランニングと心電図の異常〜安全意識と自己管理〜
マラソンやランニングと心電図異常の関係は、一般ランナーからベテラン市民ランナーまで誰にとっても切実なテーマです。特に持久系スポーツは心臓に大きな負担がかかるため、ランナーの安全意識と自己管理が極めて重要となります。
マラソン・ランニングと心臓の変化
マラソンは全身持久力を求めるスポーツの一つであり、心臓はその中心的役割を担っています。運動中は心拍数が大幅に上昇し、ゴールに近づくにつれてさらにピークに達します。長時間の運動時高血圧も加わり、心臓・冠動脈に多大な負荷がかかることが報告されています。
市民ランナーの多くは、大会直前から完走後数時間にかけて、心臓自律神経のバランスが大きく変動します。特に交感神経優位の状態が続き、副交感神経の回復が遅れると心拍変動が大きく乱れます。これが不整脈や急性冠症候群の誘引となる場合もあります。
ランナーに多い心電図異常
市民ランナーや長距離選手の心電図をみると、安静時よりもスポーツ時・トレーニング中に特徴的な変化が見られます。
主に以下のようなものです。
- 洞徐脈(極端な安静時脈拍低下):ランナーの最大90%にみられますが、多くは無症状で良性です。
- 洞性不整脈:休息時~睡眠時に出やすく、特に害のない生理的変化です。
- 特徴的な波形(例:不完全右脚ブロック、巨大陰性T波):スポーツ心臓でよくみられます。
- 心室性期外収縮や上室性期外収縮:一過性で軽度なら問題はありません。
このような所見の多くは「正常亜型」とされ、アスリート特有のものです。日常的な持久運動の効果で、心臓が効率良く拍出・拡張できる「スポーツ心臓」と呼ばれる状態になります。
ランナーが注意すべき心電図の異常とリスク
次の心電図異常の場合は、「隠れたリスク」を示す場合があります。
- 極端なQT延長、短縮、不完全もしくは完全なブロック
- 頻発する高度な不整脈(心室頻拍、心房細動など)
- 急な胸部圧迫感や息切れ、失神といった自覚症状の出現
- 左室肥大や心尖部T波変化など、器質的心疾患を示唆する所見
これらは肥大型心筋症や冠動脈疾患、不整脈原性心疾患などの重大な病気を背景にしている場合があり、突然死のリスクと直結します。特に中高年男性、強度の高いトレーニング歴がある人、既往歴がある人は注意が必要です。
マラソン中の心停止リスクと統計
フルマラソン完走者10万人あたり約1人、ハーフマラソンでは0.27人が競技中に心停止を起こすという報告があります。
肥大型心筋症は若年ランナー、動脈硬化性冠動脈疾患は中高年ランナーで多く、無自覚のままレースに臨み、突然心停止に陥るケースもあります。
ランナーとしてできる自己管理・予防策
- 年1回のメディカルチェック:心電図検査を含む定期健康診断を必ず受けること。異常があれば循環器専門医に相談しましょう。
- 安静時・運動負荷時の心電図:安静時だけでなく、トレッドミル負荷など実際の運動環境での心電図評価が推奨されます。
- 十分な水分・電解質摂取:脱水は心臓に余計な負担をかけます。特に完走後・長時間の練習では注意が必要です。
- 過度なオーバートレーニングを回避:無理なトレーニング、疲労が抜けきらないうちのレース出場は危険。不整脈や副交感神経機能低下の温床となります。
- 症状があればすぐ中止・受診:胸痛、動悸、息切れ、めまい、失神があれば即座に走行を中断し、医療機関にかかるのが鉄則です。
一般的な心電図の異常
心電図の異常は、波形ごとに特徴的なパターンに分類できます。
主な異常波形と分類を紹介します。
P波の異常
- P波が消失、形や幅が異常、凸凹しているものなど
心房細動の時はP波がなくなり、基線に細かい不規則なf波が現れます。
PQ間隔の異常
QRS波の異常
ST部分の異常
T波の異常
QT間隔の異常
リズムの異常
その他の異常波形
このように、各波形ごとに異常パターンが異なる疾患や病態と関連しています。
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