ランニング中のケガ〜膝:靭帯損傷編〜

膝の靭帯には外側側副靭帯、内側側副靱帯、前十字靭帯、後十字靭帯があり、膝周りに腸脛靭帯、膝蓋靭帯などがあります。

靭帯が損傷すると膝関節の痛み、膝関節の安定性の低下が起こります。それぞれの靭帯の損傷の特徴と痛みについてまとめました。

みぎひざの正面から見たイラストです。靱帯(外側側副靭帯、内側側副靭帯、腸脛靭帯、大腿四頭筋腱、大腿二頭筋腱の位置を示しています。
右膝のイラスト

膝の靱帯損傷の概要

膝の靭帯損傷は、スポーツや外傷などによって膝の靭帯に損傷してしまう事です。
膝の靱帯は、膝関節の動きをコントロールしており、何らかにより大きな力が加わったときに靱帯の損傷がおき、痛みや腫れ、可動制限の原因となります。
膝の靱帯には、内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯、膝蓋靱帯があります。

内側側副靭帯は、膝の内側にある靱帯で靭帯で、内側へのズレを防いでいます。外側側副靭帯は、膝の外側にある靭帯で、外側へのズレを防いでいます。

前十字靭帯と後十字靱帯は膝関節が捻られたときのストッパーとして働きます。前十字靭帯脛骨が前方へズレるのを防ぎ、後十字靭帯は脛骨が後方へズレるのを防いでいます。

筋肉の役割と腱の役割と靱帯の役割

  • 筋肉:伸びたり縮んだりする事で骨を引っ張り関節を動かす役割をします。
  • 腱:骨と筋肉をつなぐ役割をします。
  • 靱帯:骨と骨をつなぎ、関節を安定させる役割をします。

靱帯損傷の評価、重症度

靭帯損傷の程度は以下のⅠ度〜Ⅲ度に分けられています。

  • I度:靭帯が伸ばされた損傷の状態
  • II度:靭帯が部分的に断裂した状態
  • III度:靭帯が完全に断裂した状態

軽度のI度の損傷では、靭帯がわずかに伸びている状態であり、激しい運動や負荷を避け、安静にしているだけで治癒することがあります。

中程度のII度損傷では、靭帯が部分的に断裂している場合があり、手術を必要とすることがあります。

重度の損傷では、靭帯が完全に断裂している場合があり、手術が必要であり、長期間のリハビリテーションが必要になる場合があります。

膝の靱帯損傷の経過

靱帯損傷した時には、「ブツッ」や「ポキッ」、「ゴリッ」などの音を感じ靱帯が断裂します。その直後から、患部の腫れ、激しい痛み、不安定感、歩けない、などの症状があらわれます。損傷の程度にもよりますが、損傷後2週間~1ヶ月で症状は改善しますが、靱帯が断裂がある場合には安定性が低下するため、膝くずれ(膝がガクッと外れる感じ)が起こったり不安定感が残ったりする場合があります。その後症状が続くと軟骨や半月板などを傷めるリスクとなります。

治療方法は損傷の程度や年齢、生活環境などによっ異なり、保守的な治療や手術的な治療があります。早期の診断と適切な治療を行うことが、早期回復への鍵となります。

保守的な治療では、安静にして炎症を抑えるための氷や湿布、痛みを和らげるための鎮痛剤の使用が行われます。また、テーピングやサポーターを使用して、膝を安定化させることがあります。患者の痛みが軽度で、靭帯の損傷が限局的であれば、リハビリテーションを行うこともあります。

手術的な治療は、靱帯が完全に断裂した場合や、保守的な治療で症状が改善しない場合に行われます。手術は、靱帯を修復する手術や、靱帯を再建する手術があります。手術後は、手術箇所を保護するために、キャストやサポーターを使用することがあります。また、手術後のリハビリテーションも重要であり、手術後の回復を促すために行われます。

予防策としては、膝を保護するスポーツ用具の使用や、適切なウォーミングアップ、ストレッチなどが挙げられます。

膝の靱帯損傷の治療法は、個人差があるため、医師の診断と指導に従うことが大切です。早期の治療が重要であるため、膝に痛みや不安定感を感じた場合は、すぐに医師に相談するようにしましょう。

外側側副靭帯損傷

外側側副靭帯は膝の関節の外側についている靭帯で、大腿骨と腓骨をつないでいます。膝関節の外側の安定性を保つ働きをしています。

膝の関節に外側に強い衝撃を受けて内反強制(下腿を無理に内側に向けられる)の時に受傷し損傷します。

  • 膝の外側の痛み
  • 膝の外側を押さえた時や膝を曲げたり伸ばしたりした時に痛む
  • 膝を内側に反らせるような時に痛む
  • 膝の外側が腫れる
  • 膝を内側に反らせるとグラグラする感じがする

などの症状が現れます。

(膝は複雑な構造のため膝の外側の痛みの原因には他の原因の事もあります。)

内側側副靱帯損傷

内側側副靭帯は膝の関節の内側についている靭帯で、大腿骨と脛骨をつないでいます。膝関節の内側の安定性を保つ働きをしています。膝にある4つの靱帯の中で最も太く長く損傷が起きやすい靭帯です。

内側側副靱帯には、浅層と深層があります。内側側副靱帯浅層は関節裂隙の約5cm上方から約7cm下方の脛骨内側部に付着しています。

浅層を通常は内側側副靱帯と呼ばれ、浅層は半月板との直接の連続性を持っていません。

深層は関節包靭帯とも呼ばれ、内側半月板に付着しています。

膝関節の内側側副靭帯のイラストです。
内側側副靭帯の浅層、深層、半月板の位置関係がわかります。
内側側副靭帯(浅層、深層)

膝の関節に外側に強い衝撃を受けて外反強制(下腿を無理に外側に向けられる)の時に受傷し損傷します。

  • 膝の内側の痛み
  • 膝の内側を押さえた時や膝を曲げたり伸ばしたりした時に痛む
  • 膝を内側に反らせるような時に痛む
  • 膝の外側が腫れる
  • 膝の内側がグラグラする感じがする

などの症状が現れます。

(膝は複雑な構造のため膝の内側の痛みの原因には他の原因の事もあります。)

内側側副靭帯損傷の重症度

Ⅰ度(軽度)

軽度な痛みや、少しまたはほとんど見えない程度の腫れ、膝の違和感がある程度の状態です。関節の可動域に異常は認められず、靭帯ストレステストも陰性です。

Ⅱ度(中度)
膝を真っすぐに伸ばせない、歩行困難がある状態です。靭帯ストレステストで少し緩い陽性です。

Ⅲ度(重度)
腫れはあまり見られない状態で、靭帯ストレステストの陽性

前十字靭帯損傷

膝関節を横から見たイラストです。大腿四頭筋腱、前十字靭帯、後十字靭帯、膝蓋靭帯、関節腔の位置を示しています。
膝関節(横から見た)のイラスト

前十字靭帯損傷の概要

前十字靭帯は膝の関節の中にある靭帯であり、大腿骨と脛骨を結んでいる靭帯です。膝関節の中には二つの靭帯があり、前十字靭帯、後十字靭帯があり、前十字靭帯は脛骨が前にずれないようにする働きがあり、膝の前方向や捻りに対して安定性を保つ働きをしています。前十字靭帯の損傷はスポーツによる膝外傷の中でも頻度が高い損傷です。スポーツ(バスケットボールやサッカー、スキーなど)などで、ジャンプ後の着地や急な方向転換の時や、急停止した時に起こりやすい損傷(非接触損傷)と、交通事故などで、膝の前面や膝下(下腿)に外側に強い衝撃を受けておこる接触損傷のタイプに分けられています。

  • 膝周囲の痛みや腫れ
  • 膝の曲げ伸ばしがしにくくなる
  • 歩いているときなどに膝が崩れる

などの症状が現れます。

(膝は複雑な構造のため膝の痛みの原因には他の原因の事もあります。)

靱帯損傷の治療

靭帯損傷の治療は手術療法と、手術以外の治療である保存療法にわけられ、損傷部位、損傷の程度、半月板損傷の有無、不安定性の有無などによって異なります。また、スポーツへの復帰などによっても異なります。

前十字靭帯損傷の治療

前十字靭帯は、血流に乏しい靱帯のため自然治癒が望めないため、スポーツへの復帰を望む場合には手術を行うことが一般的です。しかし、スポーツを行わない場合や高齢の方の場合には、保存療法を行うことが多いです。

前十字靭帯は損傷していても日常生活では支障がないことが多いためスポーツに復帰しない場合は手術ではなく保存療法を選択することが多いです。靱帯損傷の中でも靱帯断裂の場合では、靱帯が切れた状態で長期間いると、膝がずれたり、摩耗したりすることがあり、半月板損傷や変形性関節症を引き起こすこともあります。そのため手術を行う場合もあります。

保存療法を行う場合は、装具(サポーター)の装着、関節の動きを改善する可動域訓練などを行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。

手術療法は、前十字靭帯再建術が一般的で、損傷した靱帯に、自分自身の腱を移植します。一般的には関節鏡を用いて手術を行います。

後十字靭帯損傷

後十字靭帯は膝関節の中にある靭帯で、大腿骨と脛骨をつないでいる靭帯です。脛骨が後ろにずれないようにする働きがあり、膝の後ろ方向や捻りに対して安定性を保つ働きをしています。

膝にある4つの靱帯のなかで最も丈夫な靱帯です。

膝の前面や膝下(下腿)に外側に強い衝撃を受けて、下腿に無理に後方への力が加わった時に受傷し損傷します。ランニングのようなスポーツではあまり起こりにくい損傷ですが、ぶつかり合うスポーツ(ラグビー、柔道、相撲、スキーでの転倒)や交通事故などで膝を強く捻ったり、ぶつけたりした時に起こり得る損傷です。交通事故では、車の急停車によりダッシュボードに膝(特に脛骨の上部)をぶつけることによって起こるため、ダッシュボード損傷とも言われます。

  • 膝周囲の痛みや腫れ
  • 痛みによりうごかしにくくなり可動域が制限される
  • 膝裏の圧痛
  • 膝関節の不安定感

ジャンプの着地の時やダッシュの時、階段の昇降時や坂道の下りなど膝に体重がのった時にに膝の力が抜ける膝崩れ(Giving Way)

などの症状が現れます。

(膝は複雑な構造のため膝の痛みの原因には他の原因の事もあります。)

腸脛靭帯炎


腸脛靭帯は、腸骨から脛骨までの太腿外側についている靭帯で、大臀筋、中臀筋、大腿筋膜張筋が繋がってます。

ランニングや自転車を漕ぐなどで膝の屈伸をくり返す動作により、腸脛靭帯が大腿外側上顆で擦れ、摩擦が働きます。摩擦が繰り返される事で炎症を起こして大腿骨外側顆の部分に限局した圧痛が発生します。

  • 膝関節外側の圧痛や腫脹
  • 階段を降りる時の痛み
  • ランニングの時に体重が負荷された時(足が地面についた時)の痛み 

などの症状が現れます。

膝を90度曲げた後、ゆっくり伸ばしていくと膝の外側に痛みが出現する時、膝の外側(大腿骨外側上顆)を押すと痛みが出現する時などは腸脛靭帯炎を疑います。

(膝は複雑な構造のため膝の外側の痛みの原因には他の原因の事もあります。)

マラソン、ランニング時の腸脛靭帯炎の症状

私自身が腸脛靭帯炎を経験した時の症状です。

腸脛靭帯炎の経過1

膝の外側の痛みが走りはじめに時々現われ、痛みを少し我慢すれば走り続ける事もできます。

走っていると痛みは軽減したり消失する事もありました。特に足を曲げたり伸ばしたりした時に膝の外側の痛みが走り、じわっと痛い感じではなく、ピキッと痛む痛み方でした。膝を動かさなければ痛くないのと、曲げたり伸ばしたりしても痛い時と痛くない時があり、準備運動不足が原因と判断はしてランニングを続けていました。

本来は、この時に安静にすれば治りも早いのですが、走っても痛みが消えることがあるのでついついランニングを続けていました。

腸脛靭帯炎の経過2

膝の外側の痛みがあったりなかったりを繰り返すうちに、距離を伸ばした時や運動強度を上げた時に、走っている途中で痛みが毎回出るようになりました。走るのを止めると痛みも止まることもあらりますが、止まっていても痛みが消えなくなっていきます。

痛みは5キロくらい走ってすぐ現れる時もあれば10キロ~20キロ以上走れる時もあります。だんだん短い距離で痛みが出現し痛みで走れなくなってきます。膝を曲げる時に痛みが現れる事が多くなりました。

腸脛靭帯炎の経過3

膝の外側の痛みは走る時や、階段の昇り降りの時にに強い痛みを感じるようになりました。特に階段を降りる時に激痛が走るようになり足を前方にに出すのが辛くなり、痛みで普通に歩けなくなったり、膝の曲げ伸ばしができなくなります。痛みは「ピキッ」っと突き刺さるような痛みで膝関節の力が抜ける感じでした。しかし、膝の曲げ伸ばしをしなければ痛みはほとんどありません。

この時から走る事を自粛し、膝の曲げ伸ばしを極力避けるように生活を変えました。

腸脛靭帯炎の予防

腸脛靭帯炎の予防にもっとも大切なのは柔軟性です。

腸脛靭帯の付着部は、股関節の周囲にある筋肉(骨盤、大腿筋膜張筋、大臀筋)から始まり、膝の外側に付着しており、股関節周囲の筋肉が硬くなると、骨盤に傾きが生じて腸脛靭帯は伸ばされた状態となります。
腸脛靭帯が伸ばされ硬くなると負担がかかり痛みが出る原因となります。

また、股関節の内側の筋肉(内転筋)が硬くなる事でも骨盤に傾きが生じます。
腸脛靭帯は伸ばされた状態になり負担がかかり痛みが出る原因となります。

鷲足炎

鵞足炎は鵞足滑液包炎とも呼ばれる膝の慢性的な炎症です。鵞足は”がそく”と読み、脛骨につながっている3つの腱をいい、3つの腱の形状がガチョウの足のようにみえるため鵞足と呼ばれています。3つの腱は縫工筋、薄筋、半腱様筋がそれぞれ脛骨とつなぎとる線維組織です。

鵞足炎の概要

鵞足炎(鵞足滑液包炎)は、ジョギング・ジャンプ・着地の繰り返しなど、膝の曲げ伸ばしの時に3つの腱と脛骨との間で摩擦で、傷つき炎症を引き起こすことが原因となり発症します。鵞足炎は鵞足に小さな損傷が生じることで痛みを感じます。鵞足滑液包炎は鵞足の下にある滑液包に炎症が起こることで痛みを感じます。

  • 歩いたり走ったりした時に膝の内側が痛む
  • 階段の昇り降りの時に膝の内側が痛む
  • 椅子から立ち上がる時に膝の内側が痛む

などの症状が現れます。

(膝は複雑な構造のため膝の痛みの原因には他の原因の事もあります。)

鵞足炎の予防

鵞足炎の主な原因は、膝の使い過ぎ、姿勢やランニングのフォームです。そのため鵞足炎の予防には、走り方やランニングの頻度を適切に改善することで予防、再発防止になりませんす。また、急に練習量や負荷を増やすことは避けて疲労を感じたら休養をとることが必要です。

その他に、ランニング前後のウォームアップ、クールダウンを行う事、柔軟性のアップ、正しいランニングフォームづくりが有効です。

鵞足炎の予防のために行うストレッチは、膝屈筋群(ハムストリング)や股関節内転筋群を重点的に行うといいです。

ランニングフォームで注意する事は、膝が内側に入っていないか、かかとが外側に向いていないかを意識するといいです。

膝蓋靭帯炎

膝蓋靭帯炎は、膝蓋腱炎やジャンパー膝ともいい、膝のお皿のすぐ下あたりが痛みが出現します。特に、階段昇降時痛、ジャンプの時に痛みが出る特徴があります。ランニングの時にも蹴り出す時に痛みが現れることが多いです。

膝蓋靭帯炎の原因は、膝蓋腱の中に血管が異常に増えてしまうことと考えられており、血管が異常に増える原因として繰り返しの負担であると言われています。
階段昇降、ジャンプ、ランニングでは、着地の動作のたびに、膝蓋腱が引っ張られ、負担がかった時に腱の中に小さな傷が生じ、傷を治すために血管が増えます。
この負担がかかる動作が繰り返す、傷が治る前に新たに損傷が起こりさらに血管が増えてその結果神経線維も増え痛みの原因になります。

まとめ

2020-01-08マラソン 怪我

Posted by takacyan